私は現在55歳で、老齢基礎年金と老齢厚生年金を60歳から繰り上げ受給する予定です。
私は2026年3月、33年間勤めた公務員を55歳で早期退職しました。
私が55歳で定年を待たず早期退職した理由はこちらにまとめています。
老齢年金は原則65歳から受給しますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰り上げることができます。
私の世代では、60歳まで繰り上げると年金額は最大24%減額され、その減額は生涯続きます。しかも、一度繰り上げ請求すると原則として取り消すことはできません。日本年金機構も、障害年金などへの影響を含め、さまざまな注意点を案内しています。
それだけを見ると、
「24%も減るなら65歳まで待った方が得なのでは?」
と思うかもしれません。
実際、よく使われるのが「損益分岐点は約81歳」という比較です。
しかし私は、81歳という数字だけで年金の受給開始年齢を決めるのは不十分だと考えています。
税金、社会保険料、住民税非課税、運用、インフレ、寿命、そして「何歳のときにお金を使えるか」。
これらまで含めると、見え方はかなり変わるからです。
この記事では、私が60歳からの繰り上げ受給を考えるときに重視している7つの判断材料を整理します。
※年金の最適な受給方法は、年金額、所得、家族構成、健康状態などによって異なります。この記事は私自身の考え方を整理したもので、繰り上げ受給を勧めるものではありません。
1.まず「損益分岐点は約81歳」は本当
最初に、一般的な計算を確認します。
65歳から受け取れる本来の年金額を100とします。
60歳まで繰り上げれば24%減額されるので、
60歳受給=76
です。
60歳から64歳までの5年間で先に受け取れるのは、
76 × 5年=380
一方、65歳以降は通常受給との差が毎年24ずつ広がります。
380を24で割ると約15.8年。
つまり、
65歳+約15.8年=約80歳10か月
となります。
単純な受取総額だけなら、約81歳より長生きすると65歳受給側が逆転する計算です。
ここまでは異論ありません。
私が疑問に思うのは、
「本当にここで計算を終えていいのか?」
ということです。
なお、「これまで払った保険料」という別の視点からも年金の損益を考えてみました。私の場合、ねんきん定期便の保険料納付額は約1,739万円でした。
→【ねんきん定期便を見たら保険料を1,700万円以上払っていた|年金は何歳で元が取れる?】
2.額面ではなく「手取り」で比較する
年金が24%増えれば、使えるお金も24%増えるとは限りません。
公的年金は税制上「公的年金等に係る雑所得」となり、一定額を超えると所得が発生します。
現在の公的年金等控除の最低額は、他の所得が一定以下の場合、
65歳未満:60万円
65歳以上:110万円
となっています。
さらに、所得が増えることで、
所得税
住民税
国民健康保険料
介護保険料
医療費の自己負担区分
などに影響する可能性があります。
つまり比較すべきなのは、
「76万円対100万円」ではなく、最終的に自由に使える手取りはいくらか
です。
額面だけで約81歳と計算しても、手取りベースでは損益分岐点が変わる可能性があります。
3.住民税非課税世帯になれるかどうかも影響する
私が特に重要だと考えているのが、住民税非課税世帯との関係です。
住民税非課税になるかどうかは、単に住民税がゼロになるだけの問題ではありません。
所得区分によって、医療・介護などの負担や、各種支援制度の対象になるかどうかが変わることがあります。
年金を65歳から満額で受け取ることで課税ラインを超える人が、24%減額された年金なら非課税の範囲に収まる。
そんなケースなら、
「年金額が多い=可処分所得でも必ず有利」
とは限りません。
ただし、住民税非課税の基準は家族構成や自治体などの条件によって異なります。
また60~64歳では、65歳まで年金を受け取らなければ年金所得そのものがありません。
したがって、
60~64歳では繰り上げが不利
65歳以降では繰り上げが有利
になるケースも考えられます。
ここは自分の条件で計算する必要があります。
FIRE後、実際にどのくらいのお金が必要なのかを把握するため、私は退職後3か月の支出も公開しています。[55歳でFIREした夫婦の退職後3か月の実際の支出はこちら]
4.60歳でもらったお金には「5年間」がある
60歳受給と65歳受給には、もう一つ大きな違いがあります。
それが、
時間
です。
60歳でもらった年金は、その時点から使えます。
使わなければ貯蓄もできます。
投資することもできます。
仮に世界株式のインデックスファンドなどへ投資するなら、65歳までの5年間にも運用期間があります。
私自身は長年、全世界株式などのインデックスファンドを保有してきました。2020年に紹介した投資信託を6年間保有した結果については、別の記事で実際の数字を公開しています。
2020年におすすめした投資信託は6年後どうなった?実際の運用結果はこちら
もちろん株式投資に元本保証はありません。
5年間で大きく下落する可能性もあります。
だから、
「繰り上げて投資すれば必ず得」
とは考えていません。
ただ、65歳まで受給を待つということは、
60歳から65歳までに受け取れたお金を利用する権利そのものを手放す
ことでもあります。
私はこの機会費用も含めて判断したいと考えています。
5.インフレ時代に「将来の円」をどこまで重視するか
年金は一度決まった金額が永遠に固定されるわけではありません。
賃金や物価の変動をもとに毎年度改定されます。
実際、2026年度は国民年金が1.9%、厚生年金の報酬比例部分が2.0%引き上げられました。
ただし同年度の物価変動率は3.2%でした。
名目手取り賃金変動率やマクロ経済スライドの影響によって、年金の増加率は物価上昇率を下回っています。
私は今後もインフレが続く可能性を考えています。
さらに、日本円だけでなく世界の企業へ投資することで、
資産の一部を円だけに依存しない形にできる
とも考えています。
もちろん将来の円安を予測することはできません。
だから「円安になるから繰り上げが得」と断定するつもりはありません。
ただ、
円建ての将来年金を多くすること
と、
早く受け取って世界資産を持つこと
では、保有するリスクの性質が違います。
これも私にとって判断材料の一つです。
6.「何歳まで生きるか」だけでなく「何歳まで元気か」
年金の損得では、
何歳まで生きるか
がよく話題になります。
しかし私は、
何歳まで自由にお金を使えるか
も同じくらい重要だと思っています。
厚生労働省によると、2022年の男性の健康寿命は72.57歳でした。
これは個人が72歳で健康を失うという意味ではありませんが、平均寿命81.05歳との間には約8.5年の差があります。
また、「男性の平均寿命が約81歳だから81歳まで生きる」と考えるのも正確ではありません。
年金を考える60歳まで生きた人は、0歳から計算した平均寿命より長く生きる傾向があります。
厚生労働省の2025年簡易生命表では、60歳男性の平均余命は約24年です。
それでも私は、
90歳の100万円と60歳の100万円を、人生にとって完全に同じ価値として扱ってよいのか
と考えます。
60代なら、
旅行する。
山を歩く。
趣味を楽しむ。
家族と出かける。
新しいことに挑戦する。
お金を使って得られる体験の幅が大きい。
80代や90代でも元気な人はもちろんいます。
でも、将来の自分が今と同じようにお金を自由に使える保証はありません。
だから私は、若い時期に受け取れるお金の価値を少し高く評価しています。
7.それでも繰り上げには重大なデメリットがある
ここまで繰り上げに有利な材料を多く書きました。
しかし、無条件で60歳受給が正解だとは思いません。
最大の注意点は、
一度繰り上げ請求すると取り消せない
ことです。
さらに、日本年金機構によると、繰り上げ請求後は、
国民年金への任意加入や保険料追納ができない
65歳まで遺族厚生年金などと併給できない場合がある
事後重症などによる障害基礎年金・障害厚生年金を請求できなくなる
などの重要な制約があります。
特に60歳時点で治療中の病気や持病がある人は、慎重に判断すべきでしょう。
そして何より、
100歳まで元気に生きる可能性もゼロではありません。
長生きしたときに毎年確実に入る終身年金を増やしたい人にとっては、65歳まで待つ価値があります。
私は「81歳を超えるか」だけでは決めない
年金の繰り上げについて調べると、
「81歳より長生きするなら損」
という説明をよく見かけます。
計算としては正しいです。
でも私は、それだけでは判断できません。
私が考えるのは、
額面ではなく手取りはいくらか
住民税非課税など所得区分への影響はどうか
60~65歳の5年間に受け取れる価値
投資や貯蓄に回せる時間
インフレや円の購買力
自分が何歳まで生きる可能性があるか
何歳まで健康にお金を使えるか
です。
そして最後に、
繰り上げで失う権利
を確認する。
この全部を並べて判断する方が、単純な「81歳」という数字より自分の人生に合った答えが出ると思っています。
現時点では60歳から繰り上げ受給する予定
私は現在のところ、
老齢基礎年金・老齢厚生年金とも60歳から繰り上げ受給する予定です。
理由は、
「81歳までに死ぬと思っているから」
ではありません。
税金や社会保険料、時間、運用機会、インフレ、そして健康な時期のお金の価値まで含めて考えると、
私にとっては60歳から受け取る方が合理的
と判断しているからです。
ただし、私はまだ55歳です。
実際に請求するまでには数年あります。
税制も社会保険制度も変わる可能性があります。
健康状態も変わるかもしれません。
繰り上げ請求は取り消せないので、60歳になった時点でもう一度、
その時の制度、自分の年金額、税金、健康状態
を確認して最終決定するつもりです。
年金には誰にでも当てはまる一つの正解はないと思います。
だからこそ、
「何歳が一番得か」ではなく、「自分は何を一番大切にしたいのか」
から考えることが大切なのではないでしょうか。
なお、50歳以上のねんきん定期便に書かれた見込額は、早期退職すると前提条件が変わります。私が55歳で受け取った定期便を例に、こちらの記事で詳しく確認しています。


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